
彼女とは、もう17年の付き合いになります。
17年も付き合っていれば、デートなんて日常の一部になる。
そう思われるかもしれません。
確かに、付き合い始めた頃のような緊張感はありません。
何を話そうかと考えることもないし、少しくらい沈黙が続いても気になりません。
それでも――。
彼女に会う前の日は、今でも少しうれしい。
明日は彼女に会える。
そう思うだけで、いつもの一日が少し違って見えます。
デートの前の日
「明日、予定どおりで大丈夫?」
彼女にメールを送ります。
「大丈夫だよぉ」
いつもの返事。
たったそれだけなのですが、これで明日のデートが確定します。
若い頃のデートなら、前日から着ていく服を考えたり、どこへ行こうかと悩んだりしたものです。
今は、そんなことはほとんどありません。
何時に会うか。
どこで待ち合わせるか。
それさえ決まれば十分です。
行き先だって、いつもの場所でも構いません。
大切なのは、どこへ行くかではなく、彼女と会えることだからです。
それでも、寝る前になるとふと思います。
「明日は彼女に会えるんだな」
17年経っても、この感覚だけはあまり変わっていません。
彼女に会う朝
デートの日の朝は、いつもより少し早く目が覚めます。
別に遠足へ行く子どもではありません。
もう67歳です。
それでも目覚まし時計より先に目が覚めることがあります。
顔を洗って、髭を剃る。
シャワーを浴びる。
服を選ぶ。
鏡を見て、髪を整える。そして、眉毛に墨を入れる。
普段なら多少適当でも気にならないことが、彼女に会う日は少しだけ気になります。
「まあ、こんなもんか」
鏡の中にいる67歳の男に、そう言って家を出ます。
彼女に格好よく見られたい。
そんな気持ちが、まだ私の中に残っているのでしょう。
待ち合わせ場所へ向かう
電車に乗って、待ち合わせ場所へ向かいます。
「今、電車に乗ったよ。〇時〇分到着予定」
「私は〇分頃の予定」
もう何十回、いや、それ以上こうして彼女に会いに行ったのでしょう。
最初の頃のようなドキドキはありません。
でも、待ち合わせ場所が近づいてくると、少しだけ気持ちが弾みます。
「もう着いているかな」
スマホを確認します。
「着いたよぉ」
彼女からメールが入っていることもあります。
そして待ち合わせ場所へ行くと、彼女がいる。
何度繰り返しても、その瞬間はいいものです。
私は思わず両手を振ってしまいます。
「おはよう」
「おはよう」
特別な言葉なんてありません。
でも、画面の中の文字ではなく、目の前に彼女がいる。
それだけで、今日のデートが始まります。
何をするかより、一緒にいること
若い頃は、デートには何か特別なことが必要だと思っていました。
有名な場所へ行く。
おしゃれな店で食事をする。
思い出になることをする。
もちろん、今でも旅行や街歩きは楽しいものです。
でも17年付き合っていると、それだけではないことに気づきます。
一緒に電車に乗る。
並んで歩く。
彼女が作ってきてくれたものを食べる。
くだらないことで笑う。
疲れれば、どこかで休む。
そんな普通の時間が楽しい。
何をしたかよりも、誰といたか。
今の私には、その方が大切になりました。
触れられるということ
そして、二人きりになれば手をつなぎます。
抱きしめることもできます。
彼女の身体のぬくもりを感じることもできます。
長く付き合っているからといって、触れ合うことがどうでもよくなったわけではありません。
むしろ歳を重ねた今の方が、誰かのぬくもりを感じられることのありがたさが分かるようになりました。
私たちは、この時間をとても大切にしています。
手を握る。
肩に触れる。
抱きしめる。
それだけでも、
「今日も彼女がここにいる」
と感じることができます。
そして、その先には、ふたりだけの時間もあります。
私はデートの前日になると、明日はどんなふうに彼女と過ごそうかと考えます。
長く付き合っていても、ふたりで触れ合う時間が当たり前になったわけではありません。
会えて、話せて、触れ合える。
そのすべてが、彼女と過ごす大切な一日の一部なのです。
楽しい時間ほど早く終わる
朝は、
「今日は一日ある」
と思っています。
ところが、彼女と一緒にいると時間はあっという間に過ぎていきます。
気がつけば、もう帰る時間です。
「じゃあ、またね」
何度も言ってきた言葉です。
次に会う日も、だいたい決まっています。
だから大げさに寂しがることもありません。
それでも彼女と別れて一人になると、少しだけ空気が変わります。
さっきまで隣にいた人が、もういない。
帰りの電車の中で、今日あったことを思い返します。
あの話、おかしかったな。
今日の料理もおいしかったな。
彼女、楽しそうだったな。
そんなことを考えながら家へ帰ります。
17年経っても、会いたい人
17年という時間は、人間関係をずいぶん変えるものだと思います。
最初の頃の激しさは、少しずつ穏やかになりました。
知らなかったことも、たくさん知りました。
いいところだけではありません。
お互いの欠点も知っています。
ケンカもしました。
長い間、会えなかったこともあります。
それでも今、
「明日、彼女に会える」
と思うとうれしい。
考えてみれば、それはすごいことなのかもしれません。
恋が長く続くというのは、毎日ドキドキすることではないのでしょう。
何年経っても、
「また会いたい」
と思える人がいること。
そして、実際にその人に会えること。
若い頃には当たり前だと思っていたそんな時間が、67歳になった今は、とてもありがたく感じます。
次のデートも、きっと特別なことはしないでしょう。
いつものように会って、
いつものように話して、
いつものように笑う。
そして別れ際に、
「またね」
と言う。
17年付き合っても、彼女に会う日は少し特別です。
たぶん私は、今でも彼女に会いたいのです。

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