
明日香旅行から一年ほどがたちました。
今にして思えば、一番楽しかった頃だったのかもしれません。
奈良・桜井駅で待ち合わせ
季節は春。
目的は、桜の長谷寺です。
昼食をとり、商店街をぶらぶら歩きました。
こんなふうに、ゆっくり一緒に歩くのは久しぶりでした。
桜井市は、ふたりにとって縁のない土地です。
手をつないで歩きました。
今思うと、年甲斐もない行動だったかもしれません。
でも、その時の私たちには、そんなことを考える余裕もありませんでした。
レンタカーを借りるのを忘れていました。
ホテルまでは徒歩では行けません。
急いでレンタカーを借りて、宿泊先のホテルへ向かいました。
ホテル
市の中心から少し離れた、自然に囲まれたホテルでした。
ホテルの周りを散策し、ゆったりとした時間を過ごします。
夜になると、自然とラブラブな空気になります。
シングルベッドがふたつ。
最初は別々のベッドに入りましたが、私が恵のベッドへ滑り込みました。
キスをして、抱きしめ合います。
今でも思います。
女性の身体は柔らかくて、心まで安らぎます。
だから、くっつきたくなるのです。
でも、それは誰でもいいわけではありません。
お互いを許し合ったふたりだけに許された時間です。
なすがままに愛撫し合い、やがて満たされました。
シングルベッドの狭い空間で、手を握ったまま眠ってしまいました。
翌朝
朝、目が覚めました。
「あれ?」
私は自分のベッドで寝ていました。
夜中に目が覚めて、自分のベッドに戻ったことを思い出しました。
「恵は寒くなかったかな」
そう思って恵を見ると、彼女も目を覚ましていました。
「寒くなかった?」
私が聞くと、
「ううん、大丈夫」
そう答えてくれました。
朝食はホテルで取り、その後昼食場所へ向かいました。
席に座ると恵が小さな声で言います。
「隣のテーブルの人……隣の部屋の人だよ」
恥ずかしそうな表情でした。
私は意味が分からず聞き返します。
どうやら、夜の声が聞こえていたのではないかと気になっているようでした。
そんなに激しかったかな。
長谷寺

朝食を早めに終え、最初の目的地、長谷寺へ向かいました。
混雑した駐車場に車を停め、散策を始めます。
想像以上に広く、歴史の重みを感じる場所でした。
桜の季節ということもあり、人も多く、まさに名所という雰囲気です。
特に本堂からの景色は素晴らしく、桜との組み合わせは見事でした。
その時、恵が小さな声で言いました。
「今、知り合いの人がいた。どう思ったかなぁ」
私は軽く答えました。
「聞かれたら、恋人だって言えばいいんじゃない」
その頃、恵はすでに離婚していました。
離婚した恵と、決断できない私。
バランスの崩れた関係に、心の迷いはありました。
恵の何気ない言葉が、胸に残ります。
室生寺

人混みを離れ、次の目的地、室生寺へ向かいました。
長谷寺ほど人は多くありません。
写真でよく見る五重塔と対面しました。
思ったより小さく、どこか静かな佇まいです。
女人高野と呼ばれる理由が、少し分かる気がしました。
桜井駅へ
自然を満喫し、帰路につきます。
桜井駅でレンタカーを返し、少し早い夕食を取ることにしました。
商店街の蕎麦屋でした。
私は先に食べ終えてしまいました。
それを見て、恵が言いました。
「そんなに早く食べたら、帰る時間が早くなっちゃう。
早く帰りたいの?」
胸に刺さる言葉でした。
「名残惜しい」という意味なのか。
それとも、
「奥さんのところへ早く帰りたいの?」
という意味だったのか。
もしかすると、その両方だったのかもしれません。
既婚の私と独身の恵。
アンバランスな関係の中で、私は敏感になっていたのかもしれません。
それでも――
前回の明日香旅行よりは楽しい時間でした。
少しほっとした気持ちで、帰路につきました。

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