
私たちのデートの日は、雨の日が少ないです。
特に日頃から善行を施しているわけでもなく、平凡な日々の積み重ねです。
善行によって、私たちが天に守られているわけでもなさそうです。
とは言え、雨の日もあるにはありました。
悪路
あれは夏の日だったと思います。
土砂降りの時がありました。
かつては、駅からいつものホテルまでの道は完全に舗装されていませんでした。
雨が降ると、歩道部分に大きな水たまりができました。
そんな悪路に加え、交通量が比較的多いという歩行者にとって迷惑千万な通り道となっていました。
ふたりとも傘をさして、水たまりを避けるようにピョンピョンと飛び跳ねてホテルへ向かいます。
その間に時々、車が水たまりの水を跳ね上げて通ります。
ふたりともホテルへと急ぎます。
ようやくホテルのひさしに入った時には、「やっと着いた」。そんな顔をして見つめ合います。
帰り道
帰り際、やはり雨の様子が気になります。
部屋の窓を開けてみると雨は上がっているようです。
そして、お日さまも差し始めています。
「良かったね」
ふたりで顔を見合わせます。
「やっぱり幸せな時間の後は、晴れが良いよね」
彼女はそんなことを言います。
フロントでお会計を済ませ、道に出ました。
水たまりはそのまま残っています。
「あっ、あれ!!」
彼女が空を指さします。
そこには薄くでしたが虹がかかっていました。
「きれいだね」
雨が上がった帰り道は、車を気にしながら、水たまりを飛び跳ね、時々空を見上げる。
いろんな話をしながら帰るというわけにもいきません。
天が完全に我々の味方という訳ではありません。
でも、幸いにも傘をささなくてすみます。
そんな虹に見守られながら、歳を忘れた私たちは、ピョン、ビョンと子供になったように水たまりを避けながら駅へ向かいます。
思い出
悪路だったあの道も、今ではすっかり舗装されています。
そして、道沿いにはおしゃれなコーヒーショップやお店ができました。
今では土砂降りでも水たまりができることはありません。
「あの時は大きな水たまりがあったよね」
数少ない雨の日には必ず出る話題です。
そんな小さな思い出のひとつひとつも、私たちの歴史となって残ります。
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