したくなるスイッチ

彼女に聞いたことがあります。

「ひとりでいる時は、自分で慰めたりしないの?」

中高年の女性は自慰をするんだろうか――。

そんな単純な好奇心から出た質問です。

彼女は笑いながら答えました。

「家では、そんな気分にはならないよ。
 あなたといると、そんな気分になるの」

そうなんだ……。

どこでスイッチが入るんだろう。


男の“練習”という現実

年齢を重ねると、男も性欲はゆるやかに下降していきます。

射精する力も、昔のようにはいきません。

私自身、ある時期から

「挿入はできるけれど、なかなか射精までいかない」

そんな経験が増えてきました。

ピストンを繰り返しても、下腹部にあの“モヤモヤ感”が湧いてこない。

射精に向かう合図が弱くなる――

これが中高年の男にはよくある話です。

だから私は、彼女にこう言ったことがあります。

「ごめんね。日頃から出す練習しないとダメだわ。
 今度、練習してくるね」

その瞬間、彼女が慌てた顔をしました。

「ちょ、ちょっと待って!
 え、誰と?……奥さんと?」

完全な勘違いでした。

ただの“自慰の練習”なのだと説明すると、

彼女は胸をなでおろしたように笑いました。

歳をとると、男にも準備運動が必要なのです。


ホテルでの“お作法”

私たちには、ホテルに入った時のお作法があります。

どちらが決めたわけでもありません。

15年を積み重ねるうちに、自然と形になりました。

部屋に入ったら、まずキス。

その間に、お互いの存在が馴染んで感じられてきます。

それから、私がお風呂のお湯をため、彼女はお茶を入れてくれる。

湯気が立つ頃、私たちの会話も一段落します。

すると、ちょうどお風呂がわくタイミングになります。

そして、お互いにシャワーを浴びて、湯舟では軽くじゃれ合い、

肩を揉んだり、笑ったり、彼女のからだの温かさを確かめたり。

そんな時間の中に、すでに“前戯”のような空気が漂っています。


ふたりのスイッチ

彼女と出会って、もう15年。

恋人でありながら、夫婦のような安心感もある。

セックスは特別なイベントではなく、自然なコミュニケーションになりました。

会えば、気持ちと身体を確かめ合うようにセックスをする。

嫌なことも、疲れも、一瞬でどこかへ消える。

彼女は言います。

「家では、そんな気分にはならないよ。
 あなたといると、そんな気分になるの」

その言葉の意味が、最近少しわかった気がします。

私たちには「断りがない限り、デートにはセックスが含まれている」という暗黙の了解がある。

それがふたりの身体に沁みついてしまったのでしょう。

部屋に入って、キスをする。

彼女をしっかり抱きしめる。

――たぶん、その瞬間。

お互いのスイッチは、静かに入るのかもしれません。

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