一回目の恋のおわり~恵との別れ

恵の離婚

長い時間をかけて積み重ねてきた恵との恋。

その物語の先を、そろそろ語らなくてはいけません。

出会ったころ、私たちはどちらも「家」という場所に縛られていました。

いわゆるW不倫。

その危うさゆえの均衡が、奇妙な安心でもありました。

けれど途中で、恵は離婚しました。

彼女は自由になり、私は既婚のまま取り残された。

その瞬間、私たちの関係は静かに、しかし確実に姿を変え始めました。

“同じ立場”という幻想が消えたとき、
心の距離が少しずつズレていったのです。

恵は、私との未来を願うようになり、
私は、今ある関係だけを守りたいと思い続けた。

——二人の想いは、交わりながら、すれ違っていました。

その矛盾を抱えたまま、
連絡を断っては戻り、離れようとしては近づき、
何度も同じ場所に立ち返る日々が続きました。

けれど、人の心には“限界”があります。

ある日、張りつめた糸が、
そっと音を立てることなく、ふっと切れたのです。

破綻のとき

あの日の光景は、今でも胸に深く刻まれています。

春の陽射しがやわらかくて、
風が少しだけ甘い匂いを運んでいた午後。

私は、多摩川土手を自転車で走っていました。

ポケットの中で、携帯が震えました。

ブルブルブル——。

恵からのメール。

画面に表示された文字を見た瞬間、
体の中のどこかがスッと冷えたのを覚えています。

「もう私から連絡することはありません。
 これが最後のメールです。」

覚悟していたはずでした。

でも、胸の奥で何かが崩れていくような感覚から逃れられませんでした。

私は迷いながらも返信しました。

「さよならは言いません。
 嫌いになって別れるわけではないよ。
 これからお互い前向きにいこう。」

その言葉を送信したとき、
私はもう、彼女が二度と戻ってこないことを知っていました。

春の空はあんなにも穏やかなのに、
胸の中だけが、ひどく静かでした。

それでも恋は恋

別れたあと、
何度となくスマホを手に取っては、
メールの画面を開いて閉じ、開いて閉じ……
そんなことを繰り返しました。

たった一言でも送れば、
どこかで恵が反応してくれるような気がしたのです。

でも、それをしてしまえば、
あの日、二人で終わりにした意味がなくなる。

そのたびに指を止め、
何度も自分を戒めました。

恵は以前、こんなことを言っていました。

「私は、この付き合いがどんな形でも後悔しない。
 納得して始めた恋だから。」

その言葉が、今も胸の奥で静かに響きます。

そして思い出すたびに、
松山千春の「恋」のフレーズが、どこか遠くで流れます。

——それでも恋は恋。

誰かを好きになった、その事実だけは、
どうあがいても消すことはできません。

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