
大阪の元彼女・恵と別れてしばらく経った頃、私には親の介護という現実が待っていました。
ひとりで介護を続ける日々は、想像以上に心をすり減らすもので、
私は思わずあるサイトに救いを求めました。
そこで出会った彼女とは、最初はメールだけの関係でした。
介護認定のこと、手続きの流れ……実務的な助言をくれながら、いつの間にか心まで寄り添ってくれる存在になっていました。
メールのやり取りが続くと、彼女の言葉の温度が、次第に私の日々を支えてくれるようになりました。
実際に会ってみると、印象はさらに良く、やがて冗談めかしながらも「お互いをもっと知りたいね」と話すようになったのです。
■ 約束
初めてのデートは、東京タワーでした。
ゆっくり歩きながら話をするうちに、心の壁のようなものが自然と消えていきました。
その帰り道、私は思い切って口にしました。
「次は……ホテルで、ゆっくり話しませんか?」
彼女は少し照れながらも、うなずいてくれました。
ホテルで会うということは、言葉にしなくても、お互いに覚悟を共有するということです。
「場所はどこがいい?」と私が聞くと、彼女は言いました。
「小さい頃を過ごした、思い出の場所がいいわ」
彼女が告げた多摩地区の駅名を調べると、駅近くに良さそうなホテルがありました。
■ はじめてのとき
当日は、身にしみるほどの寒い日でした。
初めて降り立つ駅。
どこか懐かしさを含んだ空気の中で待ち合わせをし、私たちは無事に合流しました。
彼女は少し緊張した顔をしていました。
私も胸が高鳴っていましたが、それを悟られまいと平静を装いました。
きっと、彼女には全部見透かされていたのでしょう。
ホテルに入り、部屋の扉を閉めた瞬間、今までのデートとは違う空気が流れました。
静かで、どこかぎこちなく、緊張と期待が混じる空間。
「俺、先にシャワー行ってくるね」
急ぎ足で浴びたシャワーの音が、鼓動を鎮めてくれるようでした。
着替えて戻ると、私はそっと聞きました。
「無理なら、本当にここで止めてもいいからね」
彼女は小さく首を振り、「大丈夫よ」と答えてくれました。
彼女がシャワーを浴びている間、私はベッドに腰かけ、落ち着かない気持ちでただ待つだけでした。
カーテン越しの光を受けて、彼女が出てきました。
私はそっと腕を伸ばし、ゆっくりと抱きしめ、唇を重ねました。
彼女は呼吸が乱れ、まるで過呼吸になりそうなほど震えていました。
その震えを包むように、髪を乱さないように気を配りながら、ゆっくりとベッドへ導きました。
その先のことは、実はあまり覚えていません。
ただ、強く、深く感じた緊張と、彼女を受け止められた安堵だけです。
そしてひとつだけ、鮮明に覚えています。
――私たちは、確かに結ばれたのだということ。
その翌朝、彼女からメールが届いていました。
「昨日はありがとうございました。
今朝は身体が少し痛いです。
結ばれたことを実感しています。
女の悦びを……はじめて感じました。」
その言葉を読んだとき、胸の奥が熱くなりました。
■ ひとひらの雪
ホテルを出ると、驚くような光景が広がっていました。
――雪です。
ひとひら、またひとひら。
音もなく降りてくる静かな雪が、まるでドラマのワンシーンのように私たちを包みました。
彼女は白い息をこぼし、私の腕に軽く触れました。
その瞬間の温度を、私は今でもはっきり思い出せます。
あの日から時間は流れましたが、今でも二人で思い出話として語り合うことがあります。
心も、体も、そっと重なった。
あの冬の日の、忘れられないひとひらの雪のことを。


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