先輩カップル②~触れ合える今を、この時を

言葉はいらない

部屋に入ると、私たちは自然と向き合っていました。

特別なことをしなくても、同じ空間にいるだけで心がほどけていく。

そんな関係になっていることを、あらためて感じます。

彼女はその日は、いつもより甘えん坊で、そして積極的でした。

先ほど見かけた老カップルの姿が、

彼女の中で何かを揺り動かしたのかもしれません。

触れる距離が近く、離れている時間が短い。

求めるというより、確かめ合うような時間でした。

私たちは仲睦まじく、穏やかに、でも確かに深くつながっていました。

すべてが終わったあと、

彼女は何も言わず、私の胸に頬を寄せてきました。

そのまま、じっと動きません。

眠っているわけではないのに、

考えごとをしている様子でもない。

ただ、そこにいたかったのでしょう。

私は彼女の背中に手を置き、

呼吸のリズムを感じながら、同じ時間を過ごしました。

言葉は要りませんでした。

若いカップル

しばらくして、私たちは身支度を整え、部屋を出ました。

ロビーへ向かう途中、

これから入っていく若いカップルとすれ違います。

手をつなぎ、少し照れたような表情。

これから始まる時間に、期待と不安が混じっているように見えました。

心の中で、そっと思います。

どうか、たくさん愛し合ってほしい。

人生の楽しみを見つけて、生きがいを感じてほしい。

そして、もしできるなら――

少子化対策にも、ぜひ貢献してほしい、と。

私たちは、すでに温かく見守る側の世代です。

老カップルからバトンを受け取り、若いカップルへとバトンを渡す。

若い二人を見送りながら、

少しだけ未来を託すような気持ちになりました。

そして、託す側の私たちも健康に気をつけながら頑張っていかなければ…。

彼女を見ると微笑んでおり、彼女も同じ気持ちだったようです。

触れ合える今を

ホテルを出ると、外はすでに暗くなり始めていました。

彼女は私の腕にそっと手を添えます。

冬の日の部屋で過ごした時間は、

静かな確信のようなものを残してくれました。

言葉などいらない。触れ合える今を、

そしていつまでも、身も心も寄り添える関係を維持していきたい。

そんなことを思いながら、

私たちは、暗くなりはじめた街へ歩き出しました。

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