
母の介護が突然始まった
私が50歳になった頃、母の介護が突然始まりました。
父が亡くなり、家事を一手に担っていた母が、認知症のような症状を見せ始めたのです。
外に出る気力がない。
記憶にムラがある。
動作もどこかぎこちない。
気になって病院へ連れて行くと、先生はこう言いました。
「こんなに薬を飲んで、お母さんは頑張っているんだから。息子さんがちゃんと見てあげないと」
その言葉は衝撃でした。
母の不自由さには気づいていましたが、あえて手助けしませんでした。
“自分でやることで老化を防ぐ”という、どこか都合の良い理屈を盾にしていたのです。
仕事と介護の両立で胸に広がったやるせなさ
それから毎日、母の食事の準備、ごみ捨て、細かな生活の世話が続きました。
最初こそ気持ちに張りがありましたが、
仕事と介護の両立は想像以上に大変で、次第に心がすり減っていきました。
それでも母には恩があります。
私は家庭の事情で大学進学をあきらめかけていました。
そんなとき、母が「行きなさい」と背中を押してくれたのです。
そのおかげで今の私があります。
しかし、介護の悩みを妻に話しても、聞き流されるだけでした。
「知らんぷり」──そう感じざるを得ませんでした。
女性なら友達に相談するのでしょう。
けれど男は、家庭の内情を外に漏らすことが苦手です。
結果、私は誰にも話せず、心の置き場を失っていきました。
ネットに救いを求めた日
そんなとき、私はネットに救いを求めてしまいました。
かつて一度目の恋のきっかけとなった無料メル友サイトはすでになく、
世の中は出会い系サイトが主流になっていました。
「いかがわしい」
「後ろめたい」
そんな思いがありながらも、孤独が勝ち、登録してみました。
案の定、言葉のキャッチボールさえままならない相手が多い中、
ひときわ落ち着いた雰囲気で返事をくれた人──それが今の彼女でした。
彼女が教えてくれた「介護認定」という道
最初は挨拶から始まり、他愛もない雑談が続きました。
少しずつ親しみと信頼を覚えた頃、私は母の介護が始まったことを話しました。
すると、彼女はこう言ったのです。
「介護認定を申請した方がいいんじゃない?
認定されれば、受けられるサービスが増えるよ」
その発想は私にはありませんでした。
彼女の後押しで役所に相談へ行き、
いくつかの手続きを経て、無事に母の介護認定を受けることができました。
デイサービスや訪問介護など、利用できる支援が一気に広がり、
私の負担は大きく軽くなりました。
さらに、老人ホームを見学するときも彼女は付き添ってくれました。
あの時の心細さの中、彼女の存在は本当に大きかったのです。
今でも、彼女には感謝しかありません。

コメント