恵の話に戻ります。
恵とは7年間付き合いました。
私は東京、恵は大阪に住んでします。
遠距離恋愛なので、会えても数か月に一回でした。
デートはほぼ日帰りで、私が大阪に会いに行きました。
お泊り旅行

7年間の付き合いで、お泊りデートをしたことが3回ありました。
一度は既にお話した奈良観光です。
二度目は明日香旅行。
三度目は桜井市に宿泊した長谷寺方面への桜を見る旅行でした。
もともと恵はご主人との離婚を考えており、二度目の明日香旅行は既婚者として、三度目の長谷寺旅行は離婚して独身者としての旅行でした。
私はといえば、既に子どもが思春期にさしかかっており、離婚は考えるものの決断できない日々を過ごしていました。
恵が離婚を決意するころからの私は、会えるうれしさと共に現実の生活のはざまで苦悩していました。
「自分の進もうとしている道は正しいのだろうか」
苦悩の日々を送っていました。
明日香で大げんか
奈良駅で待ち合わせてレンタカーを借り、唐招提寺や西大寺を巡りました。
「手をつなごう」
恵は新婚気分です。
周りからは仲のいい夫婦に見えたと思います。
私もまんざらでもない気分です。
昼食をとり、次の場所へ向かいます。
明日香へ車を使い一直線に道路を突っ走ります。
宿泊先は予約をしていませんでした。
まずは明日香で宿泊先を確保するため、考えていたホテルへ直接向かいました。
平日だからと高をくくっていたのが大間違い。
満室だと断られてしまいます。
考えてみれば、明日香は観光地です。
団体旅行が押さえていたいたのかもしれません。
「どうする?」と私。
ホテルを探して走る車の中からラブホが見えました。
恵は「あそこでも良いよ」と悪びれずに答えます。
せっかく旅行にきたのにラブホでは味気がありません。
ふと、恵が「コンビニで予約してみれば?」
「ん?」と思いましたが当日の予約をしてみると、なんと取れたんです。
たぶん、ホテル側はコンビニ枠を取っていたのかもしれません。
値段は高いものでしたが。
事件発生
なんとか宿泊先を確保して、ツインルームに入って、くつろいでいました。
その時、携帯電話の着信音がしました。
ブル、ブル、ブル…。
発信者は妻です。
放っておけばよかったのに、私は、うかつにも出てしまいました。
「どうした」と私。
「いや、ひとり旅を楽しんでるかなぁと思って」と妻。
なんでもない電話でしたが私は狼狽していました。
恵は狼狽する私を察知していたのかもしれません。
電話を切ると恵が、
「なんで出てしまうの? 電源も切っておけばいいのに!」
強い口調です。
「だって仕方ないじゃん」
お互いに引かないので手に負えません。
その夜はラブラブな時間もなく、それぞれのベッドでお互いに背中を向けて寝てしまいました。
翌朝
まさかのホテル探しと、妻からの電話騒動で疲れ果てたせいか、夜は熟睡してしました。
もしかしたら、恵は眠れなかったのかもしれません。
翌朝も険悪な状況は変わっていません。
無口です。
ようやく恵が口を開きました。
「今日はどうする?」
私も意地を張っていて、恵と観光をする気分ではありません。
「帰る」と私。
「奈良へ戻って車を返す」
恵は無言です。
まだまだチェックアウトの時間ではありませんが、奈良へ車で向かいます。
車中でも一言も話しませんでした。
奈良でレンタカーを返す時、恵が「私が払う」。
おそらく宿泊費は私が出したので、折半の意味合いがあったのだと思います。
駅前のレンターカー屋さんの前でお互いに
「さようなら」
後ろを振り返る気持ちもありません。
新幹線の中
私の電話が鳴りました。
恵からの電話です。
「今、どこ?」
「新幹線の中」と私。
恵は猿沢の池にいて、私もまだ奈良にいると思っているようです。
新幹線の中と聞いて、「そう…」と言って恵の電話は切れました。
その後の記憶
その後の具体的なことは記憶にありません。
どこかで仲直りしたのだと思います。
三度目のお泊り旅行をしたくらいですから。
最初の頃はラブラブで気持ちのすれ違いはありませんでした。
でも、お互いに強情っ張りなところがあるので、時にはぶつかり合います。
そして、その後、彼女の離婚をきっかけに、さまざまな疑問を持ち始めるようになっていくのです。
そんな気持ちを持ちながらの付き合いが始まります。
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