
サイトを同時に退会し、メールだけのやり取りが始まってから、彼女の言葉の温度が少しずつ変わっていきました。
丁寧な文章の奥に、ためらいのような、期待のような、微かな熱がまぎれていたのです。
そして気づけば、同じ思いが胸の内で育っていました。
──「会ってみたい」。
その感情は、抑えようとしても自然に滲み出てしまうものでした。
「会ってみませんか」
思い切って誘ってみました。
初めての出会い
待ち合わせは都内のシティホテル。
ロビーに入った瞬間、ふっと香る彼女の柔らかな香りに、心臓が一つ跳ねました。
目が合った瞬間、メールでは感じられなかった“生身の彼女”が一気に迫ってきました。
声の響き、髪に触れる光、少し緊張している肩のライン。
どれも想像していたよりずっと静かに、しかし確実に、僕の内側に触れてきました。
レストランに移ると、彼女はご主人との生活の閉塞感をぽつりぽつりと語りはじめました。
今まで我慢していたものが、テーブルに置いた指先から滲み出るようでした。
その指先を見つめながら、
「この人の寂しさに触れてはいけない」
「でも触れたい」
そんな相反する感情がゆっくりと入り混じっていくのを感じました。
不思議なことに、初対面なのに緊張よりも落ち着きがありました。
メールで積み重ねた距離感が、そのまま温度を保ったまま現実に流れ込んでくる…そんな出会いでした。
デート後のメールが、余韻を深める
別れたあとも、彼女からのメールはすぐに届きました。
会っているときには言えなかった気持ちが、柔らかく、少しだけ甘く綴られていました。
その文章を読んでいると、
彼女の声がすぐ耳元で囁いているように感じられ、身体の内側がゆっくり熱を帯びていくのです。
デートのあとのメールは、今でも続いている大切な習慣です。
お礼を交わすだけなのに、文章の端々に残る“余韻”が、もう一度彼女を抱き寄せたくなるような、そんな想いを静かに誘ってきます。
もっとお互いを知りたいね
お互いに好意を隠せなくなっていけば、また会いたくなるのは当然のことでした。
それから二度のデートを重ね、距離はゆっくり、しかし確実に縮まっていきました。
とくに印象的だったのは、梅の季節のデート。
薄桃色の花が風に揺れ、そのたびに彼女の横顔が少し柔らかくほどけていく。
その横顔を見ているだけで、胸の奥が静かに疼きました。
「また、梅を見に行きたいね。」
その言葉には、季節だけでなく、あの日の空気、ふたりの距離、
そしてあのときの“触れたいと思った気持ち”までもふくまれている気がしています。
そして、
「もっとお互いを知りたいね」
そんな会話も自然に交わすようになっていました。

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