
私たちのデートには、ひとつの小さなルーチンがあります。
部屋に入り、扉が静かに閉まった瞬間——
ふたりは言葉より先に、そっと抱きしめ合うのです。
服越しでも伝わる彼女の体温は、不思議なほど落ち着きを与えてくれます。
最初の頃、彼女は「うっ、ちょっと…」と戸惑った声を漏らしました。
しかし、腕の中でその戸惑いが少しずつ溶けていき、観念したように抱き返してくれる瞬間があります。
あの一瞬の変化を感じるたび、私は「やっと会えた」と思うのです。
ふたりきりの時間
ふたりきりの時間も、抱擁から始まります。
私がベッドで横になって待っていると、
シャワーを終えた彼女がバスローブ姿で静かに部屋へ戻ってきます。
そして、彼女はベッドの脇に腰を下ろし、そっと私の方を振り返ります。
その仕草に、言葉以上の優しさと期待が混じっています。
私はバスローブを外し、彼女の肩へ手を添えて引き寄せ、
深く、ゆっくりとキスをします。
呼吸が重なるたび、気持ちは静かに高まっていき、
やがて私は彼女の身体を包み込むように上から抱きしめます。
肌と肌が重なる抱擁は、
ただの儀式ではなく、ふたりの時間を開くための合図です。
抱きしめるたび、心まで温かくなっていくのです。
抱きしめたまま、しばらく動かずにいる時間があります。
彼女の胸が上下するたび、その呼吸のリズムが少しずつ私に移っていき、
ふたりの体温が、静かに、じわりと溶け合っていきます。
耳元に聞こえる彼女の息遣いは、
まるで「ここにいるよ」と囁いてくれているようでした。
ふたりだけの体温
腕の中の彼女は、最初は緊張で少し硬いのですが、
やがて肩の力が抜け、身体が私に預けられていきます。
その変化は、抱きしめている私にとって何よりも嬉しい瞬間です。
私は彼女の背をゆっくり撫でながら、
頬を寄せ、首筋にそっと唇を触れさせます。
触れただけなのに、彼女が小さく息を吸う。
その反応が、たまらなく愛おしいのです。
気持ちの距離も、
身体の距離も、
どちらも静かに縮まっていきます。
彼女は両腕を私の背にまわし、
ぎゅっと、引き寄せるように抱き返してきました。
その抱擁には、安心と、甘えと、少しの照れが混ざっています。
「…あったかいね」
小さくつぶやいた彼女の声は、
抱擁の中に生まれた、ふたりだけの体温そのものでした。
私はその言葉を胸の奥で噛みしめながら、
もう一度そっと唇を重ねます。
長いキスではありません。
けれど、それだけで十分でした。
抱きしめることから始まり、
抱きしめることで深まっていく。
私たちの関係に欠かせない、
大切な儀式のような時間です。

コメント
ステキです