
恵との想い出は、もうすべて書き終えたつもりでした。
でも、その後、思い出したことがあります。
これは、私自身のために書きます。
恵は歌が好きでした。
私の手元には、今も二枚のCDが残っています。
一枚は「コブクロ」。もう一枚は今井美樹の「AQUA」。
コブクロ
奈良市内を恵と車で走っていた時のことです。
「ねえねえ、コブクロ好き?」
私の脳裏には「コブクロ」という単語は、飲み屋さんの串焼きしか浮かんできませんでした。
「うん、知ってるよ。ビールに合うよね。」
助手席で、恵が「えっ?」と笑いをこらえています。
「違う違う。歌手のコブクロよ。」
私はまったく知りませんでした。
「今度、CDに焼いて持ってくるね。」
今井美樹~AQUA
その言葉どおり、次のデートの時に、恵はコブクロのCDを手渡してくれました。
その時、もう一枚、薄いピンク色のCDケースを差し出しました。
「私ね、今井美樹の『AQUA』が好きなの。この曲を聴くたびに、あなたを思い出すの。」
さっそく、車のオーディオに入れて聴いてみました。
「『私にとって、あなたは──』のところがね、好きなの。」
恵は窓の外を見ながら、少し照れたように笑った。
「今まで、あなたの言葉で何度救われてきたことか。」
記憶の断片
これまでブログを書き始めて、恵の記憶の断片を繋ぎ合わせてきました。
先日、「AQUA」のことを急に思い出して、曲を聴いてみました。
恵の笑顔が、昨日のことのようによみがえってきます。
でも、過去は過去。
今の私は、今を生きている。
彼女も、彼女の今を生きている。
だから——
AQUAは、しばらく封印します。

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